『アナと雪の女王』:2013年公開、国内史上最も愛されたウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ映画『アナと雪の女王』をもとに舞台化。2018年にブロードウェイ初演を迎え、日本では劇団四季により2021年にJR東日本四季劇場[春]で開幕。「Let It Go」でアカデミー歌曲賞を受賞したロペス夫妻が作詞・作曲を手がけ、10曲以上もの新曲が追加された。”真実の愛”によって解き放たれる、二人の姉妹の物語。
アレンデール王国の王女エルサは、氷を操る魔法の力をもつが、ある夜、誤ってその力で妹アナを傷つけてしまう。以後、エルサは自らの力を恐れ、長く心を閉ざし、孤独に追い詰められていた。やがて戴冠式の日、閉ざされていた城の門が開かれる。アナはそこで出会った王子ハンスと意気投合。エルサに結婚の許しを得ようとするが、言い争いとなり、感情が抑えきれなくなったエルサは誤って城に氷の魔法を放ってしまう。怪物だと騒ぐ人々を後に城を逃れたエルサ。アナは山男クリストフや雪だるまのオラフと共に姉を追う。一方、エルサは美しい氷の宮殿で、一人きりで自由に生きることを決意する。アナたちは氷の宮殿へ辿り着くが、エルサが放ってしまった魔法が今度はアナの心臓を直撃。“真実の愛”だけがアナの心を溶かすことができると教えられたクリストフは、彼女をハンスの元へ届ける決心をする——。
劇団四季が誇るディズニーミュージカル『アナと雪の女王』が、観客を氷と雪の世界へと誘った。幕が上がると同時に広がるのは、圧倒的なスケールと緻密な舞台装置が織りなす壮大な物語の始まりである。
第一幕の『生まれて初めて』では、アナとエルサの対照的な感情が鮮やかに描き出される。門が開かれる瞬間にあふれる高揚感、これから始まる新たな世界への期待が劇場を満たし、観る者の心を一気に引き込む。アナの無邪気な輝きとエルサの抑えきれない葛藤が交差し、ふたりの心の距離が音楽とともに刻まれていく。
そして訪れる『ありのままで』。誰もが待ちわびた名曲の瞬間、エルサが抑圧から解き放たれるその一瞬に、会場全体が息をのむ。煌びやかな雪と氷の演出、豪華なセット、そして迫力ある歌唱が一体となり、まさに“魔法”が舞台上に具現化する。エルサの開放的な歌声に、自由と決意のエネルギーが宿っていた。
第二幕は、オーケンの陽気な登場で幕を開ける。客席との「フッフー!」の掛け合いが生まれ、会場には笑いが弾ける。店の中に並ぶ小道具の一つひとつまでが精巧に作られており、職人技が光る場面である。
隠れびとの繊細な衣装や、氷が溶けていく演出のリアルさも圧巻だ。細部に宿るこだわりが物語の説得力を支え、アニメーションの世界を現実へと引き寄せている。
クライマックスでは”真実の愛”がもたらす奇跡に涙を誘う。エルサの晴れやかな表情から伝わる幸福と安堵に、観客は静かに心を震わせる。終盤では一切のセットを取り払い、出演者のみが立つシンプルなステージに。照明と歌声だけで心を打つその構成が、俳優たちの存在感を際立たせていた。
カーテンコールでは、オラフが日本公演ならではの”ハッピ姿”で登場し、客席を沸かせる。最後に舞い降りる雪が観客を包み込み、まるでエルサの魔法を体感するかのような余韻が残る。帰宅後、衣服の間からこぼれ落ちた”白い雪”を見つけた瞬間、あの感動が再び蘇る——そんな幸福な記憶を持ち帰ることができる作品であった。

全編を通して、専用劇場ならではの大規模な舞台美術が生み出す臨場感と、随所に散りばめられた“魔法の瞬間”が印象的だ。アナの早替えやエルサの衣装変化はその象徴であり、視覚的にも感情的にも観客を驚かせ続ける。
この日アナを演じた町島智子は、太陽のような明るさとエネルギーで舞台を照らし、どの瞬間を切り取ってもまさにアナそのものであった。対するエルサ(森川温子)の圧倒的な歌唱力は物語の軸を力強く支え、姉妹の絆に深みを与えている。内木克洋演じるスヴェンのわずかな仕草にまで生命が宿り、トナカイの存在感をリアルに感じさせたのも見事だ。
子どもが夢中になり、大人が胸を打たれる——その両方を満たす普遍的なテーマがこの作品にはある。高揚と涙、緊張と解放、そのすべてが生の舞台だからこそ味わえる感動であり、観客は気づけば笑顔と涙を浮かべながら劇場を後にしている。
劇団四季のディズニーミュージカル『アナと雪の女王』は、まさに“心を震わせ、温める”ミュージカルの真髄である。
*劇団四季ディズニーミュージカル『アナと雪の女王』東京公演は2027年1月17日まで
Photo Credit :[(C)Disney 撮影:阿部章仁]
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