公演レポート:HANS ZIMMER LIVE – THE NEXT LEVEL
『トップガン マーヴェリック』や『DUNE/デューン 砂の惑星』など、数々の名作を手がけてきた映画音楽界の巨匠ハンス·ジマーが、進化を遂げたライブ·プロダクション『 Hans Zimmer Live – The Next Level』を携えて再び日本に戻ってきた。2026年9月16日、横浜·ぴあアリーナMMで、日本で唯一となる公演が開催された。ヨーロッパ各地の大型アリーナで完売が続出した本ツアーは、横浜公演を皮切りにアジア各都市へと巡っていく。ステージにはハンス·ジマー率いる19名の精鋭ミュージシャンが集結。新たなエレクトロニック·サウンドに加え、照明やステージ機構を駆使した演出が融合し、昨年の初来日公演とはまた異なる音楽体験を生み出した。
昨年は、映画音楽の名曲を大編成のバンドとオーケストラで味わう贅沢さが際立っていた。今回の『The Next Level』でも、その圧倒的な演奏力は健在だ。そこにより大胆な照明演出や立体的なステージ展開、演奏者たちの躍動感あふれる表現が重なり、映画音楽の世界をより身体的に感じられるライブとなっていた。

開演直前、場内に雷鳴のような音が轟く。まだ演奏は始まっていないにもかかわらず、これから始まる世界への期待が一気に高まっていく。モニターにハンスの姿が映し出されると、客席から大きな拍手と歓声が沸き起こった。
静かながらも威厳に満ちた『ダークナイト』で幕が開く。ハンスがギターを奏でると、ドラムが胸の奥まで響く重低音を生み出し、音と連動した照明が会場を包み込む。瞬く間にアリーナ全体が楽曲の世界へと引き込まれていった。
マイクを手にしたハンスが「Good evening, Japan」と挨拶すると、客席から大きな歓声が返る。続く『DUNE/デューン 砂の惑星』では、黄色いマントをまとったシンガーが登場。強烈な存在感で歌い上げ、異世界的な緊張感を作り上げる。ハンスとギタリストが向かい合って音を交わす場面では、互いの演奏に呼応するように身体を動かし、女性ドラマーも全身を使って力強くリズムを刻んだ。
ハンスがオーケストラを「ファミリー」と紹介したことも印象的だった。ステージ上で繰り広げられる演奏からも、長い時間を共にしてきた仲間たちの強い結びつきが感じられる。

『マン·オブ·スティール』では、忍び寄るような静かなイントロから圧巻のサビへと展開。シンガーの美しい高音が響き渡り、重厚なサウンドの中に爽快な広がりを生み出した。日本人チェロ奏者Marikoが長い髪を揺らしながら奏でる姿も、このライブならではの光景だ。ギターにピンスポットが当たると、ハンスは観客に背をむけその演奏にじっと耳を傾ける。そこには、音楽を率いるだけではない、一人の音楽家として音そのものを愛する姿があった。
妖艶な空気に包まれた『ハンニバル』では、赤いロングドレスのMarikoとキャンドルを持った演者たちが登場。次第にコーラスが大きくなるにつれて、会場全体が真紅に染まっていく。続く『Chevaliers』では切ないバイオリンに合わせて照明が雨のように降り注ぎ、静かな旋律から徐々に壮大な世界が広がった。
ミステリーの幕が開くような『Sherlock』では、バイオリンとアコーディオンがスリリングに掛け合う。アコーディオン奏者はしゃがみ込みながら全身で演奏し、音が小さくなるにつれて身体も低くなっていく。視覚的な動きも加わることで、楽曲の緊張感がより鮮明に伝わってきた。
『グラディエーター』では壮大さと高揚感の中に切なさが差し込み、ローマを思わせる衣装の女性コーラスが楽曲にさらなる深みを与える。映画の映像がなくても、音楽だけで物語を思い浮かべることができる。ハンスのスコアが持つ力を改めて実感させられる瞬間だった。

第二幕の『インセプション』は、不穏な空気の中で幕を開ける。音に合わせて客席まで照らされる中、ハンスはキーボードを演奏。弦楽器奏者たちは衣装を赤から黒へと変え、疾走感のある演奏を繰り広げる。ドラムソロが炸裂すると、静寂と轟音が交互に訪れ、照明も音楽と見事にシンクロする。
その激しさから一転、ハンスが愛する女性に届けるために披露した楽曲では、自らピアノを奏でる。青い光の中を泳ぐように音楽が広がり、白い光が波打つようにステージを包む。まるで静かな海に揺られているような、美しく穏やかな時間が流れた。
ハイトーンボイスとバイオリンが美しく呼応し、雷鳴のようなドラムが加わると、音楽は大きな渦となっていく。さらに全身をシルバーの反射素材で包んだダンサーが空中を舞い、無重力の宇宙を泳ぐような幻想的な光景を生み出した。
誰もが知る象徴的なイントロが響くと、会場は一気に『ライオン·キング』の世界へ。映画で『Circle of Life』を歌ったオリジナル·ボーカリスト本人が娘とともに歌声を響かせ、アフリカ系パフォーマーたちがジャンベを手に、リズミカルな歌と踊りを披露する。明るく生命力に満ちた曲調から危機迫る展開へ移ると、映像がなくてもハラハラするほどの緊張感が押し寄せる。音楽だけで物語を想像させる、ハンス·ジマーの真骨頂だ。ラストには壮大なサウンドが広がり、目の前に大草原が出現したかのようなスケール感で締めくくられた。

『パイレーツ·オブ·カリビアン』では、Marikoが再び長髪をなびかせながら全身でチェロを奏でる。バイオリンとのアンサンブルにも観客はうっとりと聴き入った。やがて海賊の旗が揺らめき、ステージは青く染まる。そこに広がったのは、まるで果てしない大海原。圧倒的な没入感に、演奏が終わっても歓声は途切れなかった。
ラストを飾ったのは『Time』。ハンスがピアノと登場すると、場内は静寂に包まれた。ピアノとバイオリンが静かに旋律を交わし、やがてバイオリンの音が消える。最後に残ったピアノの音が静かに響き終わると、ハンスはゆっくりと手を天へ掲げた。
その瞬間、会場から大きな拍手が沸き起こった。何度も繰り返されるカーテンコール。観客は立ち上がり、スタンディングオベーションが続く。出演者全員がステージ前方に並ぶと、ハンスは一人ひとりとハイタッチを交わし、客席にもエアーハイタッチを送った。
昨年の初来日公演でも強く印象に残った、ハンス·ジマーの音楽と照明、ステージ演出、そして演者たちの躍動感。それらが今回も一体となり、さらに進化した『The Next Level』ならではの世界を作り上げていた。スクリーンの中で何度も聴いてきた音楽が、目の前で生演奏によって立体的に広がっていく。楽曲そのものの力に加え、光や身体表現が重なることで、観客はそれぞれの映画の世界へと引き込まれていく。

何度も鳥肌が止まらなくなるほどの圧倒的な音楽体験。『Hans Zimmer Live – The Next Level』は、単なる映画音楽コンサートの枠を超え、ハンス·ジマーの音楽そのものを全身で体感するライブとなった。
Photo Credit :[成瀬正規@mnp.hoto]
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